DVD「スコット・ウォーカー30世紀の男」  (湯浅学X樋口泰人)

■DVD「スコット・ウォーカー 30世紀の男」(日本語字幕) 発売記念イベント■

2010年1月14日(木) 第二夜 

湯浅 学(著述業・湯浅湾 53歳) X 樋口 泰人(boid主宰 53歳)


この日は前日と違って 根っからのスコット・ファンは恐らく私一人くらいで若い人たちがポツポツといったところ。
ゲストの湯浅さん樋口さんは共に 陽の目を見ない映画や不当に顧みられない音楽を 新たな観点から掘り起こしている人たち。 昔のレコードを話のタネに
映画から触発されたScott Walkerの特色をユニークに語り合ってくれました。 

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(Scott Walker "Pola X" メイキングより)


★夢が叶った!

湯浅: 樋口さんは この映画を前からヤレ! ヤレ!って言ってましたよね。

樋口: スコット・ウォーカーの特別大ファンというわけではなかったが アルバムを聴いていて 全然時代にそぐわない《反時代的》な面白さを 世界の人たちがどれだけ分かってくれるんだろうか?と ハラハラしながら(反応を)見ていた。
元々人気者だった人だけど この人が この世の中(音楽産業界)に堂々と存在していることが不思議でしょうがない。 何を考えて作っているんだろうと興味を持っていた。

湯浅: それはあるね~。 『ティルト』が出た時も「何だコイツ!」と思ったけど この映画に出てくる『ドリフト』の肉パンチは衝撃!

樋口: ベルリン映画祭(2007年)ではパティ・スミスのは話題になっていたが スコット・ウォーカーがとにかく何をやっているか見たかった。 自分でも騒いでみたが 日本ではとても上映できないだろうと思っていた。

湯浅: 夢が叶ったじゃないですか! DVDも出て世の中まだまだ捨てたもんじゃないね。

樋口: まぁ小さな夢ですけど・・・。 DVDの制作(版権・翻訳・字幕作成)・上映を最初から仕掛けるには 最低でも200万から300万かかる。 今日は僕が何か言うよりも 映画を見て「アップリンクさん ありがとう!」としか言いようがない。 (私 拍手パチパチ)


★映画「スコット・ウォーカー 30世紀の男」を見て。

湯浅: 期待はしていたが こんなに面白いとは!

樋口: ビックリしたのは パーカッショニストに肉を叩かせるくシーン。

湯浅: あれ「叩き方指導」だよ。(笑)

樋口: 歌詞(クララ)の内容と人間をまるで家畜のように扱う話とがあって 肉を叩かせる行為になるというのは スコットの中で論理的につながっていることだと思うが 呼ばれたパーカッショニストは 自分の技術を見せるのじゃなく いきなり肉を叩けと言われてどんな気持ちになっただろう。

湯浅: OKが出て良かったね~。(笑) 

樋口: (パンチの音は)音だけ聴いてると分かんない。 改めて音楽は見るもんだよね。

湯浅: この『The Drift(ドリフト)』は暗いから信用できるアルバム。 スゴイ好きで2006年のBEST10に入れたんだけど 10年振りとかいうのに (日本の音楽界では)全然話題にならなかった。

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映画を見てるとスコットに似ているいろんな人が合わさってくるが 知る人ぞ知る「裸のラリーズ」の水谷孝さんが同じようなことを言ってる。 物を作る上で大事なことは 「いかに遠回りするかを自分で納得できるかが重要」で 結論に達するまでにかかる時間は一律ではない。 「産業」の中では それがなかなか成り立ちにくい・・・。

樋口: 普通は問いかけがあると答えが求められちゃって それで閉じて(終わって)しまう。 迂回する時間がもっと必要だよね。 スコットは巨大な問いかけがあって答えが出てこない。 大きな膨らみが どんどん開かれてゆく。 

湯浅: この人は妄想をしないといけないのかな~と思えてくる。


★「嫁入り道具」

湯浅: ヨメがスコットのファンで 嫁入り道具にこれを持ってきたんですよ。(笑)

(ここで湯浅さんの伴侶「翻訳者 湯浅恵子さん」のお宝 「スコット1~3」のソロ・アルバム(LP)3枚が披露される)

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(当時中学生だった奥さんが買っていたLPには ジャック・ブレルの刺激的な歌詞の作品が含まれている)

 ♪"Scott 2"(1968年)から「ジャッキー」が場内に流れ 湯浅さんが訳詞を拾い読み。 (訳詞はこちら

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湯浅: ティーンエイジ・アイドルだった人がこんな歌を歌いだして これを当時の中学生が聴いてたんだよ~!(笑)

樋口: かろうじて日本人でヨカッタと思うのは 歌を聞いても歌詞は分かんないから。(笑) 当時の中学生なら エンゲルベルト・フンパーディンクと大して違いが分からずに聞いてたかも?


★ウォーカー・ブラザーズvsジミヘン (ファンにはお馴染みのトピック)

湯浅: まだあまり知られていなかったジミ・ヘンドリックス&エクスペリアンスが 初めてギターに火をつけて燃やしたのが 1967年のウォーカー・ブラザーズの解散ツァー。 
マネージャーのチャス・チャンドラーが 「何かやってやろうじゃないの」と考え ギターにガソリンをかけることを提案。
逆に言えば ウォーカーズがメインでなければ ジミヘンはギターを燃やさなかったかもしれない。(笑)

樋口: スコットに対抗して火をつけたというわけですね。

湯浅: そうそう。 ウォーカーズがギターを燃やす原動力になったということ。
で この時「実験」済みだったのでモンタレー(1967年6月に開催されたアメリカ初の野外ポップ・フェスティバル)では楽チンだったのよね。 


★スコット・ウォーカーのサウンド・ヴィジョン

湯浅: 映画でクラシックの影響があると言ってたけど 音楽のサウンド・ヴィジョンが大きいのは 今でもつながっている。 レンジが広い。 その元をたどると 初期WBがアメリカで出したシングル曲はジャック・ニッチェがプロデュースした(Love Her) いわゆる「フィル・スペクター・サウンド」(ウォール・オブ・サウンド)。 

(ここで昔のシングル盤をターンテーブルにかけ曲が流れる)

 ♪「ふられた気持」 (You've Lost Loving Feeling)・・・ライチャス・ブラザーズ 
   
プロデューサーはフィル・スペクター。 WBは最初のころ「ミニ・ライチャス・ブラザーズ」と呼ばれていた。
   
 ♪「孤独の太陽」 (In My Room)・・・ウォーカー・ブラザーズ 

日本ではコレ・・・出だしのタタターンの音を聞くだけで小学生でもわかるくらいヒットした曲。

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湯浅: (お宅から持参した当時の日本版シングル・レコードを見ながら)このジャケットに「ビートルズはもう古い!~」って書いてあるんだよ。(笑) 

樋口: この曲は当時でも懐古趣味的な音なのにね~。 

湯浅: 最早スペクター・サウンドが過去の時代のものと言われてたのに 「ビートルズはもう古い!」っていうところが面白いな~。

樋口: スコット・ウォーカーの音も 過去と未来が一緒くたになってますよね。

湯浅: そうそう それが面白い。 奥行きの大きいサウンド・ヴィジョンを維持しながら今もず~とやっている。
「ポーラ X」のサウンド・トラックを撮っているシーンなんて 狂気の沙汰としか思えないじゃない? 
でもあれは現代音楽のノイズを重ねていくのと同じなんだよね。 それは交響曲をどうやって新しくしていくかという延長線上にある。

スコットの大きいサウンド・ヴィジョンが イーノの『アンビエント』シリーズや『オブスキュア』とつながっているのが映画を見て すごく良くわかった。

樋口: イーノも音をデッカクするととんでもないことになってるかも。

(ここで超有名なヒット曲)

 ♪「明日に架ける橋」(サイモン&ガーファンクル)

    「Scott4」(1969年)を出した後に大流行した。

湯浅: これも大きなサウンド・ヴィジョンつながりでいえば同じ仲間。 エンディングのところに「何でこんな不穏な低音が入っているの?」というような音があるんだ。

樋口: 地鳴りのような。

湯浅: スコット・ウォーカーのスケールの大きいサウンド・ヴィジョンは 当時のイギリスの雰囲気・気分を反映していたと映画で言っていたけど  それが「ハード」や「プロコル・ハルム」になっていく。 そのルーツは教会音楽にあるのではないか。 石作りの中の反響音みたいなのが「S&G」にもつながっている。

それが少なくなってきたのは 音作りに費用がかかるのとマルチ・チャンネル化による録音方法の変化 時代的気分としてコンボ・スタイルのロック・バンドに変わってきたことで シンガー・ソングライターなどのクローズな音作りがメインになった。 そういう端境期に"Scott 4"があった。
スコットの偉いところは あくまで大きいヴィジョンで自分の音楽を考え続けていたこと。    

樋口: 多分カラックスが反応したのもそこかな。 当時レオス・カラックスはとんでもなく大きなことしか考えてない人という評価。 作品の良し悪し以前に 大きなヴィジョンを持っている映画作家は他にいないというのが大前提にあった。

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(Leos Carax)

湯浅: 3年かかってサントラを作ってたんだものね~。 最近の音楽制作・音作りとは対極にある分 スコット・ウォーカーは同時代的共感は生みにくい・・・。

樋口: 共感というところでは創ってないだろうし サウンド・ヴィジョン同様 時代のヴィジョンもデカイ。 ものすごい未来を見ている。

湯浅: 「30世紀の男」っていいタイトルだよね~。 100年単位でものを考えろと!

樋口: そういう人だと思います。

湯浅: 励みになるなぁ。 オレこの映画本当に好きだな!

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ここで湯浅さんからフィル・スペクターに関する余談・・・(Phil Spectorは殺人罪で2009年禁固19年の判決を受けた)

湯浅: ヤツは多分生きてるうちに刑務所を出られないと思うけど 身内の人に差し入れを頼む時 《シャツ~パンツ~ときて最後に "i - Pod"》 って書いてあったんだって。(笑)
いい話なんだけど フィル・スペクターが「アイ・ポッド」で音楽を聴くのかぁ。。。
分厚いサウンドの創始者vs小さな音量のi-Podのギャップが可笑しいですね) 

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★100年のヴィジョン
  
ここからは樋口さんが持参したフランク・シナトラの歌が流れる。

 ♪"It's A Lonesome Old Town "(アルバム「Only the Lonely」より)

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 ♪音源はyoutubeのこちら

樋口: 1958年のアルバムでシナトラが42~3歳頃の歌。 めちゃくちゃ暗いんですよ。 

湯浅: シナトラのなかで一番暗いかも。 なんか加山雄三が「悲しい酒」を歌っている雰囲気だよね。(笑)
・・・悲しい歌ばかりだけど アレンジがネルソン・リドルだから音がきれいで聴きあきない。

樋口: 多分シナトラの中でも特異なアルバム。 
1958年頃の(繁栄に隠れた)アメリカの暗い部分が反映されてる。 シナトラは
この時期 エルビスに王座を取って代わられ その後にフィル・スペクターがちょうど出てくるあたり。
具体的な関連は無いけど WBの音楽活動を始める前にこういう歌があって それを血肉にした上でスコット・ウォーカーの歌が出てきたと思う。。 

アメリカのこの時代の空気を吸収しながら 過去をも今に引き寄せつつ10年後に向かってスコットはソロ・アルバムを創っていった・・・そんな気がする。

湯浅: シナトラのは今から52年前になるね~。

樋口: でも100年のヴィジョンでみれば まだ半分。

湯浅: 100年が1単位! 「10分のフィルムに10年かけるのは当たり前」だとラリーズの水谷さんが言ってましたから。。。

樋口: まッ そういうつもりでこれから生きていくといいかなと・・・。

湯浅: 100年分の収入が1日で得られればいいかな。(笑)

樋口: そういう夢が叶うといいですね~。

湯浅: それで皆がハッピーになる! ならないか~。。。

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イベント第二夜の対談は ラフではありますが WBからScott作品を通した40年に渡るスケールの大きいサウンドの展望と 映画を通して見たスコット自身の時間・空間を超えた音楽性への驚嘆と畏敬が ユーモラスに語られました。

★観客からの質問

Q: 湯浅さんの一番好きなスコット・ウォーカーのアルバムは「The Drift」ですか?

湯浅: 今のところはそうかな。 「ドリフト」は思いつきをどれだけ拡張できるかを試して作りこんでいる。 突き抜けている感じがする。 
聴きどころが多い割に後味が悪いんだよね。(笑) それでこれはスゴイ名盤だ!と思った。
だけど発売当時は まわりで聴いてる人はほとんどいなくて 樋口君と大竹伸朗(現代美術の画家)だけだった 。。。スコットもタイヘンだなぁと思っていた。。。

Q: フランク・シナトラに関連して スコットがWBの頃に「好きな歌手」の一人にシナトラを挙げていたが DVD特典映像の最後にとても面白い表情をしたスコットのインタビューが出てくる。
 
ある映画の挿入歌にディランの"I Threw It All Away"とシナトラの"MY Way"を歌ってくれと頼まれたスコットは 「何があったって"My Way"は歌いたくないからね」と テレながら珍しくオーバーなジェスチャーで拒否反応を示していた。 
同じシナトラでも大衆化された通俗的な歌は嫌いだったみたい。
スコットらしくいいセンスをしているなと感じた。


樋口: だからスコットはこっち(アルバム「Only the Lonely」)なんですよ。 このアルバムを聴いてからウォーカー・ブラザーズのセカンド・アルバム"Portrait"を聴くと 一緒だなと感じられる。
シナトラのアルバム~WBの「ポートレイト」という順番で聴くことを試してみてください。 逆じゃ分かんない。

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"My Way"はオヤジ・ソングの定番。 人生を臆面もなく歌いあげる気恥ずかしい歌詞を 最早スコットが歌うとは思えないですもんね。 
DVDの付録インタビューの中で 「歌うように頼まれた一つは"My Way"・・・」って スコットが笑みを含みながらお茶目な顔をするあの場面は 特典映像の最大のお楽しみ! 
 
youtubeで "It's a Lonesome Old Town" 試聴してみました。
かなりスロウ・テンポな曲だけど オーケストレーションが本当にきれい。 確かにこのエッセンスはWBやスコットの初期ソロ作品に受け継がれているのでしょう。

私の場合 当初聴いていたWBの2作のアルバムでは 「Old Folks」や「People Get Ready」 「太陽はもう輝かない」などの曲を若々しく歌ったWBサウンドや華麗なヴォーカルに魅了され 当時一世風靡していたイギリスの音楽とは違う「新しいアメリカの空気感」が逆に新鮮に聞こえました。 

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■映画「Pola X」と「30世紀の男」が爆音映画祭で上映!■

第3回「2010年爆音映画祭」が吉祥寺バウス・シアターで開催されます。

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「世界一 音の良い映画祭 映画の見方変わります」 という謳い文句どおり音楽専用の高音質スピーカーで再現した映画を 新たな見方で鑑賞できる絶好の機会。
今回は重ね重ね嬉しいことに Scott Walerのサウンド・トラックを 思う存分楽しもうと樋口さんからの提案で 「ポーラ X」と「スコット・ウォーカー 30世紀の男」が 上映されます。

★2010年爆音映画祭の開催期間: 5月28日(金)~6月12日(土)
  上映日時は未定ですが 詳細はboid "2010年爆音映画祭HP"のこちら

★爆音映画祭開催に合わせて 同時期に音楽イベントがあります。

今回より もっといいシステムを組んで スコット・ウォーカーやライチャスやビートルズなどのレコードをガツン!と聴こうという企画。
昔の音楽をただ懐かしむのではなく 昔のレコードが「如何に狂っていて楽しいか」を今の音として聴こうというもの。 一体どんな面白さになるのか興味がつきません!

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(左:「湯浅湾」のTシャツがのぞく湯浅さん 右:眉毛とメガネが淀川長治さん似の樋口さん)

ところで樋口さ~ん!
今度からは「スコット・ウォーカーの特別なファンです!」と宣言してね~!

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